
ボート倶楽部 '02 8月号
あこがれの動物天国を人力小船、シーカヤックで旅する
文・写真 西沢あつし
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オルカ、クジラ、アザラシ、イーグルにレイブン、そしてブラックベア。ここジョンストン海峡は野生動物たちの宝庫である。決められた時間で最大限にこの魅惑的な海を楽しむために、ボートやヨットを使って効率的に楽しむツアーが人気である。
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あこがれのオルカに会いにジョンストン海峡へ飛ぶ
この年の前年、クインシャーロット諸島を訪れ、時間の中に埋没していなんとするトーテムポールの前に立つことができた。悪天候の合間に訪れた、たった1回の幸運な晴天であったが、ひとつの物足りなさを感じていた。それは動物たちの出会いである。カナダ西岸の海というと、オルカ、クジラを始めとして、さまざまな動物と会えることが紹介されトきた。特にカヤックのそばを悠然と泳いでいくオルカの群れの写真は、いつか僕も撮ってみたい写真のトップとなっていた。
その後、カナダでガイディングをしている友人から、カヤックでジョンストン海峡あたりを旅するツアーがあるので同行してみないか、という誘いをもらった。まず8割がたの確立でオルカに出会うことができるという。ジョンストン海峡はオルカやクジラに多少興味がある人であれば、聖地と言ってもいいほど有名な場所である。
カナダの西の玄関口であるバンクーバー国際空港から、国内線で約1時間のフライトで着いたポートハーディ。ここからさらにタクシーで一時間の道のりで、ポートマクニールという小さな港町についた。
宿泊したホテルで早速ミーティングが開かれた。ガイディングは「ノーザンライツエクスペディションズ」という、1983年からこのジョンストン海峡をはじめとするインサイドパッセージを中心にツアーを主催する古参のアウトフィッター。日本語ができるガイドもおり、日本語のホームページもある(http://www.seakayaking.com/japanese/)。ツアーに参加するまでにツアーの概要のみならず、動植物ガイドや環境に配慮すべき点などを記したガイドブックなども郵送してくれる。ここでは自己紹介と、ウェアのレンタルを頼んだ人はここでサイズ合わせをした。極端な話、シーカヤッキング用の道具をまったく持っていなくても、またシーカヤッキングをしたことのない人であっても参加は可能なのだ。しかし自分のことは自分でするという最低限の技術と、野外生活に対する拒否反応がないということが条件にはなるが。
翌朝ポートマクニールの港に集合し、ウォータータクシーに荷物を積み込む。アルミ製のボートに225馬力の船外機を2機がけ。これでスタート地までぶっ飛んでいくのだ。ひとくちにジョンストン海峡といっても長さは50kmもあり、多島海となっているこの近辺は魅力的な場所がたくさんある。目的地近くまでスキップして、いい所をゆっくりとカヤックで楽しもうという算段である。
キャンプ地は白い海岸だ。この白さは大量の貝殻であった。採って食べた貝殻をもとの通りに海に戻せばまた命はもどってくるという、ネイティブの言い伝えがあるそうだ。氷河で削られて出来たこの海峡は、砂浜はそれほど多くない。キャンプ好適地は、その昔原住民が実際に住んでいた場所であることが多い。ここは今も持ち主がいるそうだ。
午後、軽く肩ならしに漕いだ隣のスウォンソン島で休んでいると、オルカの小さポッド(群れ)が遠くを泳いでいくのが見えた。ガイドがすかさず水に投げ込んだ水中マイクからは「キュイン、キュイン、クククク…」と、それまでテレビでしか聞いたことのないオルカの鳴き声が、小さなスピーカーを通じて僕らの耳に届いてくる。この時は流石にカヤックで出るにはつらい距離ではあったが、このあとを期待させるに十分な出来事であった。
ボリュームのある晩飯のあと、ゆったりとした時間が流れる。夜の七時を過ぎたというのに昼間のように明るいのだ。このあとテントの中で、熊が水に入って餌をとっているらしい音を聞いた。まさにワイルドライフ真っ只中にいることを実感したのである。
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オルカたちがキャンプ場の 目の前を通り過ぎていく。
呼吸音を響かせながら 翌日、テントを出ると雨が静かに落ちていた。少々気落ちしていると、夏の天気のパターンは、だいたい朝は曇りで夕方に向かって晴れていくことが普通だとのこと。朝から晴れている場合は、その日は強風になることが多いという。
さていよいよ出発。このツアーはベースキャンプを決めて、付近を散策するスタイルだ。隣の島の岩場でブラックベアに遭遇した。ベリーを食べるのに夢中だったようで、僕らを一瞥するとまた食べ始めた。この近辺に主に生息するのは臆病なブラックベアで、人間の気配を感じるとそそくさと逃げてしまうのだが、これほど長い時間姿を見るのは、ガイド歴20年のデビットも初めてだ、と言っていた。再び漕ぎ出してすぐに後方でブロウ(呼吸)音がした。ネズミイルカだそうだ。身長150cm、体重50kg小型のイルカ。警戒心が強くてなかなか見られないらしい。ランチのためにあがろうとした小さな島の岩場では若いオス鹿がこちらをじっと見ている。まったく午前中だけでどれだけの動物に会ったことか。誰かが動物園のようだと言った。
昼食はボッコンチーニ・サンド。イタリア風サンドイッチである。食事にはすべてレシピがあり、ガイドはそれに基づいて正確に料理を作る。毎日2,000〜3,000カロリーを採るように計算されているのだ。代表であるデビットがベジタリアンなので肉は出てこないが、魚や乳製品は頻繁に使われる。
翌日は素晴らしく晴れたのだが風が強い。予定では次のキャンプ地に移動する予定であったが中止となり、森の中のトレッキングや水泳(水温は10度にも満たないが!)など思い思いのゆっくりとした一日を過ごすことになった。
さて次の日、薄曇ではあったが風はない。次のキャンプ地はジョンストン海峡に面したところにある、というのではりきって支度をする。キャンプ道具も載せるので2人乗りのカヤックは6人でようやく持ち上げられるだけの重量になった。狭い海峡を抜けてジョンストン海峡に出ると、「オルカとザトウクジラが北から来ているようだ」とデビットが言う。彼らはオルカウォッチングの無線を受信して情報を得ているのだ。浮いているケルプに乗り上げて待つ。しかし海峡の反対側に行ってしまったようなので、残念ながら一旦あがることになった。はるか遠くにブロウがあがるのが見えた。
陸で海を見ながらぼっとしていると、デビットが「アツシ。ひとつの群れがこっちに向かっているようだ。もしかしたらここの前を通るかもしれないぞ!」という。彼らが来る保証はないが期待するしかない。とにかく待つ。結局夕食も始まってしまった。あきらめかけた頃、「来たぞ!」誰かが声をあげた。
一頭、特徴的な黒い頭と背びれが海面を割り、まっすぐ向かってくる。そして後方にもう一頭。ブロウの音が次第に近く、強くなってくる。とても短く小気味がいいリズムだ。ブロウのあとに顔が少し上がると、顔の横の白い斑点が目に入る。慌ててレンズを向けた。切り取られた風景の中で、金色に染まる海に黒い影が素晴らしいコントラストとなって目に焼きついた。ブロウで空気中に噴かれた水滴が、斜めに差し込む太陽の光を受けて黄金色に輝く。あの呼吸音と光景は忘れることはないだろう。これがこのツアーでの最接近遭遇となった。残念ながらカヤックの上から見ることはかなわなかったが、彼らの息遣いを間近に感じることはできたのだ。
後日、デビットから新しいツアーのお知らせを受け取った。「アツシ、オルカやクジラとの遭遇をメインにしたカヤックツアーをはじめるよ。待ってるよ」、と。
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